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審査事例

事例1

請求項1

情報処理装置によりニューラルネットワークを実現するダムの水力発電量推定システムであって、 入力層と出力層とを備え、前記入力層の入力データを基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、前記出力層の出力データを前記基準時刻より未来の水力発電量とするニューラルネットワークと、 前記入力データ及び前記出力データの実績値を教師データとして前記ニューラルネットワークを学習させる機械学習部と、 前記機械学習部にて学習させたニューラルネットワークに現在時刻を基準時刻として前記入力データを入力し、現在時刻が基準時刻である出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部とにより構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。

請求項2

請求項1に係る水力発電量推定システムであって、 前記入力層の入力データに、さらに、前記基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含むことを特徴とする水力発電量推定システム。

 

請求項1に係る発明は、下図に示すように、基準時刻より過去数週間の上流域の降水量、上流河川の流量およびダムへの流入量と、基準時刻より未来の水力発電量を教師データとして機械学習したニューラルネットワークに対して、現在時刻より過去数週間の上流域の降水量、上流河川の流量およびダムへの流入量を入力することによって、現在時刻より未来の水力発電量を推定するものであります。
事例1の請求項2に係る発明は、さらに入力データとして、上流域の気温を含めるようにしたものであります。

 

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引用発明1

審査において、以下の引用発明1(既に公開されている特許発明など)が発見されたとします。

情報処理装置により重回帰分析を行うダムの水力発電量推定システムであって、 説明変数を基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、目的変数を前記基準時刻より未来の水力発電量とする回帰式モデルと、前記説明変数及び前記目的変数の実績値を用いて前記回帰式モデルの偏回帰係数を求める分析部と、前記分析部にて求められた偏回帰係数を設定した回帰式モデルに現在時刻を基準時刻として前記説明変数にデータを入力し、現在時刻が基準時刻である前記目的変数の出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部とにより構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。

 

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周知技術

審査において、以下の周知技術(既に広く知られている技術)が認定されたとします。

機械学習の技術分野において、過去の時系列の入力データと将来の一の出力データからなる教師データを用いてニューラルネットワークを学習させ、当該学習させたニューラルネットワークを用いて過去の時系列の入力に対する将来の一の出力の推定処理を行うこと。

結論

請求項1に係る発明に対し、上述した引用発明1が存在した場合、請求項1に係る発明は、引用発明1と上記周知技術との組み合わせから、進歩性なしと判断されます。
一方、請求項2に係る発明は、入力データに、基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含み、引用発明1では、そのような構成はありませんので進歩性ありと判断されます。

理由

請求項1に係る発明は、入力層と出力層とを備えたニューラルネットワークにより水力発電量推定を実現するのに対し、引用発明1では、回帰式モデルにより水力発電量推定を実現する点で相違しています。
しかしながら、周知技術として、過去の時系列の入力データと将来の一の出力データからなる教師データを用いて学習させたニューラルネットワークを用いて過去の時系列の入力に対する将来の一の出力の推定処理を行うことが知られています。そして、引用発明1と周知技術とは、データ間の相関関係に基づき、過去の時系列の入力から将来の一の出力を推定するという点で機能が共通します。
以上の事情に基づけば、引用発明1に周知技術を適用し、回帰式モデルに代えて学習済みニューラルネットワークを利用して、水力発電量推定を実現する構成とすることは、当業者が容易に想到することができたと判断されます。

 

請求項2に係る発明は、水力発電量の推定に上流域の気温を用いているが、水力発電量の推定に上流域の気温を用いることを開示する先行技術は発見されておらず、両者の間に相関関係があることは、出願時の技術常識でもありませんので進歩性が認められます。

弊所コメント

事例1のように、回帰式モデルなどのその他の統計的な手法によって実現されている方法に代えて、単に学習済みニューラルネットワークを用いるようにしただけでは、進歩性を認めてもらうのは難しいといえます。
ただし、事例1の請求項2のように、入力データとして、新しいパラメータ(事例1は上流域の気温)を加えることによって顕著な効果が得られる場合には、進歩性が認められる可能性があります。ただし、そのパラメータが、出力データと高い相関関係を有することが知られており、特に顕著な効果を有するものでない場合には、そのようなパラメータを加えたとしても、進歩性を認めてもらうのは難しいといえます(次項事例4を参照願います)。

 

なお、入力データとして新しいパラメータを加える場合、その新しいパラメータと出力データとの間に何かしらの相関関係があることを明細書内にて示すか、もしくは出願時の技術常識を鑑みるとそれらの間に相関関係等が存在することが推認できることが必要となります。

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