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ユニクロ無効審決取消訴訟事件(令和2年(行ケ)第10102号、第10106号、令和3年(行ケ)第10034号) | YMR国際特許事務所

法律情報

ユニクロ無効審決取消訴訟事件(令和2年(行ケ)第10102号、第10106号、令和3年(行ケ)第10034号)

令和3年5月20日 知的財産高等裁判所

無効審決取消訴訟事件(令和2年(行ケ)第10102号、令和2年(行ケ)第10106号、令和3年(行ケ)第10034号)

原告 株式会社ファーストリテイリング

被告 株式会社アスタリスク
 
株式会社アスタリスクの特許権(特許第6469758号)の一部を無効とする無効審決が取り消された事件です。すなわち、本事件では、株式会社アスタリスクの特許権は、全て有効であると判断されました。進歩性の判断の際にご参考になるかと思いますので、ご紹介致します。

 

株式会社アスタリスクの特許権に係る請求項1(以下、本件発明1といいます)は、以下のとおりです。
【請求項1】
 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
 上向きに開口した筐体内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、を備え、
 前記筐体および前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴する読取装置。

本件発明1は、具体的な実施形態は、以下のような構成です。読取装置20は、買物カゴB内の商品Pに付されたRFタグ12と交信してタグ情報を読み取る据置式の装置です。

 

FIG1

読取装置20は、下図に示すように、筐体24を備えています。筐体24は、買物カゴBの縁の外形よりも広い方形の底板26を備えています。底板26の各縁には、底板26に対して垂直に立設された4つの壁板28が接合されています。この4つの壁板28および底板26によって、上向きに開口した方形の筐体24が形成されています。

 

FIG2

そして、各壁板28の内壁面42には、電波反射シート38が貼着されています。電波反射シート38の内側全面には、電波吸収シート40が貼着されています。そして、水平板50の上面にも、電波反射シート38および電波吸収シート40が貼着されています。すなわち、各壁板28および水平板50に設けられた電波反射シート38と電波吸収シート40によって、アンテナ60を収容し、上向きに開口30が形成されたシールド部44が構成されています。

 これに対し、無効審決で用いられた引例(米国特許第9245162号明細書)(以下、甲1という)に記載の発明(以下、甲1発明1という)は、下図に示すような装置です。

 

FIG1

判決では、甲1発明1に係る装置を、以下のように認定しています。
 「RFIDタグを保持している対象物を載置キャビティ202に挿入するための上向きの挿入アパーチャ106を備え、データをRFIDタグから読み取ることが可能な読取り手段に接続されるアンテナを備える読取り壁によって区切られた、長方形の載置キャビティ202を、下側部分に備える、据置式の読取り/書き込みデバイス102であって、
 載置キャビティ202は、3つの中実の防壁108、110、112によって囲まれ、これらの壁は、2つの防護側壁108および110と、読取り/書込みデバイス102の前面および後面の上に延在する防壁112であり、3つの中実の防壁108,110,112は、載置キャビティ202の挿入アパーチャ106の周りに配置され、3つの中実の防壁108、110、112は、読取り/書込みデバイス102の外部に位置する対象物が検出されるのを防ぐために、載置キャビティ202内のRFIDタグを読み取るのに使用される周波数の電波を吸収する発泡体を備え、プラスチック材料で作られ内側パネルと、電波を反射する金属で作られた外側パネルと、それら2つのパネルの間に挟みこまれた電波を吸収する吸収性発泡体とを備え、防壁112に配置された、挿入アパーチャ106にアクセスするためのアクセス開口部116は、挿入アパーチャ106の高さに等しいかそれよりも上の高さに実質的に位置し、実質的に挿入アパーチャ106によって形成される水平面に垂直な平面を形成するように配置される。」

 そして、判決では、本件発明1と甲1発明1は、以下の点で相違していると認定しています。
 本件発明1は、「上向きに開口した筐体内に設けられ、」前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、「RFIDタグを保持している対象物よりも広い開口が「上向きに」形成されたシールド部、および、「前記筐体および」前記シールド部が「上向きに」開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取る。
 これに対して、甲1発明1は、「アンテナ」を収容し、「RFIDタグを保持している対象物」を囲み、「RFIDタグを保持している対象物」よりも広い開口が前向きに形成されている、「3つの中実の防壁108、110、112」、および、「3つの中実の防壁108、110、112」が、前向きに開口した状態で、「データRFIDタグから読み取る」点で、相違している。

 そして、判決では、上述した本件発明1と甲1発明1の相違点について、甲1には、上記の「前向きに開口された状態」を「上向きに開口された状態」とする動機付けとなるような事項は、記載も示唆もされていないと判断されています。
 また、判決では、甲2(特開2017-72995号公報)および甲3(特開2015-207119号公報))について述べられており、甲2については、「筐体が上向きに開口されている状態でRFタグから情報を読み取ることについて動機付けとなるものではないと判断されています。
 また、甲3については、「開閉フタ12」が存在するものであるから、筐体およびシールド部が上向きに開口した状態で、RFタグから情報を読み取るものではないと認定しています。そして、甲3に記載の発明を、甲1発明1に適用した上で、さらに、その筐体を、シールド部とともに上向きに開口したものとすることで、相違点に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者が容易にすることができたこととはいえないと判断しております。
 結論として、本件発明1は、甲1発明1および甲1~甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは言えないと判断しております。

 なお、判決では、上述した甲1発明1の装置に組み込まれる、下図に示す挿入アパーチャ106を有する「読取り/書込みモジュール200」(以下、甲1発明2という)に対する本件発明1の進歩性についても判断されています。
 甲1発明2については、本件発明1のような「据置式」の読取装置でなく、単体で、本件発明1と対比されるべき「読取装置」であると認めることはできないと判断され、本件発明1は、甲1発明2と同一であるということはできないし、甲1発明2から当業者に容易に発明をすることができたということはできないと判断されております。

 

FIG2

弊所コメント
 今回の判決から、進歩性の判断においては、請求項の各構成要件と引例の各構成要件との対応関係、一致点・相違点の認定、および相違点に想到する動機付けの検討が非常に重要であると改めて認識致しました。
 特許庁の審査段階で発行される拒絶理由通知では、各構成要件の対応関係や相違点に想到する動機付けが明示されることなく、進歩性を否定されることがあります。このような拒絶理由通知の場合には、各構成要件との対応関係や相違点に想到する動機付けを厳密に分析して反論することで、拒絶理由を解消できる可能性があるかと考えます。

詳細な判例情報は、こちらをご参照願います

 

 

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